1.【概要】:
日本電信電話(9432)は、総合ICT事業とグローバルソリューション事業を中核とする情報通信企業です。2024年度第3四半期の営業収益は前年同期比3.4%増加しましたが、営業利益は5.9%減少し、純利益は15.9%減少しました。本レポートでは財務状況と事業セグメント分析を詳細に行い、投資判断の材料を提供します。
2.【業績予想】:
項目 | 2024年度通期予想 | 前年比 |
---|---|---|
純利益 | 1.1兆円 | -14% |
年間配当 | 5.20円 | +2% |
3.【財務項目】:
財務項目 | 金額(百万円) | 前期比 |
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営業収益 | 10,049,724 | +3.4% |
営業利益 | 1,399,233 | -5.9% |
営業利益率 | 13.9% | -1.5%pt |
経常利益 | 1,341,686 | -13.8% |
純利益 | 850,691 | -15.9% |
総資産 | 30,603,365 | +3.4% |
流動資産 | 9,087,568 | +6.8% |
流動負債 | 9,353,570 | +5.7% |
自己資本比率 | 33.2% | -0.1pt |
1株当たり利益 | 10.15円 | -14.6% |
4.【損益計算書からの洞察】:
項目 | 分析結果 |
---|---|
収益構造 | グローバルソリューション部門が7.3%増収(3.4→3.6兆円)で成長牽引 |
費用要因 | 人件費6.3%増(2,312億円)が利益圧迫の主因 |
収益性 | 営業利益率13.9% →ICT事業部門利益率が18.2%から18.0%へ低下 |
5.【貸借対照表からの洞察】:
項目 | 分析結果 |
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資産健全性 | 現預金21.9%増(1.2兆円)で流動性強化 |
負債リスク | 短期借入金1.29兆円増加(2.5→3.8兆円) |
資本政策 | 自己株式取得額1,436億円(前年比▲26%) |
6.【キャッシュフロー計算書からの洞察】:
項目 | 分析結果 |
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営業CF | 1.08兆円(前年同期比▲24%)大幅減 |
投資活動 | データセンター拡張で投資1.46兆円 |
フリーCF | △3,800億円(営業CF1.08兆-投資1.46兆) |
7.【分析・評価】:
項目 | 評価(5段階) | 理由 |
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収益性 | 3 | 営業利益率低下だがグローバル部門が成長維持 |
安全性 | 4 | 現預金1.2兆円+自己資本比率33%で安定基盤 |
成長性 | 3 | グローバル部門7.3%増も国内ICTは低成長 |
効率性 | 2 | 流動比率97.2%で短期支払能力に懸念 |
キャッシュフロー | 2 | 営業CF24%減が最大の課題 |
8.【総括と投資判断】:
成長性とリスクのバランス
グローバルソリューション部門の7.3%増収が光るものの、人件費増加と金利負担増が収益を圧迫。1.2兆円の現預金残高と33%の自己資本比率で財務基盤は堅固だが、営業キャッシュフローの24%減が懸念材料。
株価評価の観点
予想PER(13.0円予想EPS)は業界平均並み、配当性向79%は継続性に注視が必要。再生エネ資産売却(1,336億円)が株価下支え要因に。
9.【課題】:
- 人件費増加率(+6.3%)が売上増加率(+3.4%)を上回るコスト構造
- 営業キャッシュフローの大幅減少(△24%)
- 短期借入金の急増(+50.6%)による利払い負担
10.【結論】:
日本電信電話はグローバル事業の成長が期待できるものの、国内ICT事業の収益悪化とキャッシュフロー減少が課題です。配当増額(+2%)と自己株買い(1,436億円)で株主還元を強化していますが、営業利益率13.9%と前年比1.5%ptの低下は見逃せません。課題解決のためには、①人件費抑制策の強化、②収益性の高いデジタルサービスの拡大、③海外事業の収益改善が鍵となります。短期的には配当目当ての投資が有効ですが、中長期ではグローバル部門の成長持続性を注視する必要があります。現時点では「保有」判断が適当と判断されますが、次四半期のキャッシュフロー改善度合いが重要な指標となります。